今日、トビリシでは雪が降りました。この時期のトビリシは曇りがちで、太陽の出ない日などは極端に冷え込みます。今日にいたっては最高気温が3℃と、あたかもロシアに住んでいるような寒さです(あくまでこの時期のロシア、ですが)。
2月のモスクワ

 アムステルダムに住んでいたころもつねに曇天続きでしたが、雲の高さや風の強さはまるで違ったように思われます。アムステルダムでは低空を雲が覆い、強風が町中を煽っており、町が平坦に圧縮されているような感じでした。今日のような日のトビリシは、むしろ2月に訪れたモスクワを思い出させます。
 私がバレエ団と一緒にモスクワ入りした際の気温は0℃前後で、2月のロシアにしてはだいぶ穏やかな天気でした。2、3日は大雪に見舞われましたが、それでも-10℃を下回るかどうか、という程度だったように記憶しています。
 この遠征はバレエ団の芸術監督ニーナ・アナニアシヴィリの恩師ライサ・ストルチコワを記念したガラ公演が目的で、アレクセイ・ラトマンスキーの振付作品『レア』等を上演しました。『レア』は作曲家レナード・バーンスタインのバレエ音楽『ディブック』を用いた作品で、ユダヤ神秘主義としてよく第一に挙げられる「カバラ」などが踊り手として登場します。私が踊ったのもこのカバラの役で、端的に言うと「この世界を形成する文字の役」でした。音楽的にも気に入っている作品なので、作品については後日あらためて取り上げるつもりです。(内容について少し踏み込んで考察したいので、ゲルショム・ショーレムの『カバラとその象徴的表現』を読んでから書こうと思っています。もっとも、肝心の本は日本の実家に置いてあるのですが・・・)
ラトマンスキーの『レア』

 モスクワ滞在中は、ボリショイ劇場でボリショイバレエ団のスターとともに踊り、ボリショイ劇場管弦楽団の演奏でバレエを踊るという事態に言葉を失い、言いようもない感慨に襲われたのをよく覚えています。プロになってまもなく怪我に見舞われ、思うように動けなかった2年間を振り返ってこその感慨だったのだと思います。もっとも、傍目には隴西の李徴よろしく、みじめな回想かもしれませんが・・・
 ジョージアのバレエ団とともに行ったからこそ、モスクワの威容を実感できたのかもしれません。ここトビリシのバレエ団には、ソビエトを肌身に感じてきた教師陣が大勢います。モスクワとの邂逅は、そういったソビエト時代の片鱗を嗅ぎとりながら踊る毎日だっただからこそ、普段見逃しがちなバレエ本来の文脈をあらわにする痛恨事のように思えたのかもしれません。
 私はこの一件でようやくロシアという大きな存在と向かい合えたことを幸運に思います。これまでのジョージア生活における一番の思い出が皮肉にもロシア訪問というわけですが、そんなこともあって、今日のような寒々とした日には非情なまでに冷やかなロシア音楽を聴きたくなります。ロジェストヴェンスキーの指揮する『白鳥の湖』を流しつつ、今後の身の上について思索を巡らすそんな夜です。


▶参考
カバラ(ウィキペディア日本語版)
ディブックとは(日本イスラエル親善協会)
バレエ『ディブック』(ウィキペディア英語版)
バレエ音楽『ディブック』(Youtube)



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