つい昨日、こういった情報が解禁されたのをみなさんはもうご存知でしょうか??


 来日する6つの名門バレエ学校とは、つまり

  • ワガノワ・バレエ・アカデミー
    (ロシア・サンクトペテルブルク)
  • ハンブルク・バレエ学校
    (ドイツ・ハンブルク)
  • ウィーン国立歌劇場バレエ学校
    (オーストリア・ウィーン)
  • ハーグ王立コンセルヴァトワール
    (オランダ・ハーグ)
  • カナダ国立バレエ学校
    (カナダ・トロント)
  • オーストラリアン・バレエ・スクール
    (オーストラリア・メルボルン)

のことです。この企画、おそらく成功裡に終わるだろうとは思うのですが、


 いや、名門ってなによ??


ということを誰かがはっきりと批評すべきだと思ったので、記事にしました。


▶名門はブランドでしかない


 日本バレエ界における黎明期、すなわち戦後まもなくの頃、バレエはロシア一国のものだと言っても過言ではありませんでした。世界全体を見渡しても、ソビエトほどの規模や水準でバレエが体系的に栄えた国はほとんどなかっただろうと思います。

 欧米バレエ界の礎を築いた立役者は、大半がソビエト連邦から欧米へ抜け出ていったダンサーや振付家たちです。バレエ・リュスの後裔もさることながら、バランシンやヌレエフ、マカロワ、バリシニコフといったスターたちなくしては、今の欧米バレエ界はありえませんでした。

 かくて欧米各国に根付いた大型のバレエ団は、ロシア系のダンサーに門戸を開くとともに、バレエ界における「後進国」から現れた逸材を雇うことでバレエ団独自のアイデンティティを築こうとしました。フリオ・ボッカをはじめ、カルロス・アコスタや熊川さんの活躍などはその典型的な例だと思います。

 その結果、21世紀に彼らを待っていたのは、皮肉にもインターネット(特にYoutube)の普及による、地域格差の縮小でした。いまやマリインスキー劇場でもっとも人気のあるプリンシパルは韓国人であり、ロイヤルバレエ団やシュツットガルトバレエ団におけるイギリス人、ドイツ人ダンサーの人数はそれぞれ数えるばかりになっています。

 ロシア人があらゆる国と地域で教鞭をとり、なにがクラシック・バレエなのか、というスタイルの違いすらも曖昧になっている現今において、いわゆる名門が名門である格別の理由はもはやないのです。バレエ界における名門卒とは、たとえるなら「ハーバード卒のプログラマー」であり、そこからバレエ界のスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクが生まれる可能性は、むしろ低いのではないでしょうか。


▶名門のない日本だからこそ、名門にこだわる意味はない


 日本はそもそも国立のバレエ学校の存在しない国であり、そのためか海外のバレエ学校をむやみやたらと持ち上げる風潮が絶えません。無論、バレエだけに集中できる環境に身を置かない限り、競争の激しい昨今のバレエ界を生き抜くことがほぼ不可能なのは確かです。とはいえ、若いダンサーが海外に行くことは何を意味するのか、ということを辛辣に批評する土壌はまだ培われていないように感じられます。

 海外で踊ることを決意する、ということは、単に日本を離れることだけを意味しません。目的もなく海外で踊りたい、というほどの甘さは論外として、「ダンスでお金を稼ぐ」という目的をもって海外に向かったのであれば、極論それは日本に帰れない、ということを意味します。なぜなら海外と同じ生活水準・サポート水準を保ったまま、日本でその目的を達成することは現状不可能だからであり、日本に帰ることは必ずやそのいずれかを犠牲にすることを意味するからです。

 しかも海外の「名門」から奨学金を受け取るような日本のダンサーたちは、その時点でかなりの技術水準に達していることが少なくありません。むしろ、生活の自由を得たことでダンサーとしては伸び悩んでしまったという人もいるほどです。

 事実、名門のない国であったからこそ、日本のバレエ界は国内で競争を高め合う特異な環境を醸成できたわけで、それは日本人にとって必ずしもデメリットではなく、むしろチャンスと捉えるべきだと思います。

 かの三島由紀夫は、「留学の目的は、朝早く目覚め、修行に専念する生活習慣を身につけるためである」といったようなことをさえ書き綴っていましたが、これはあながち間違いではありません。海外に行かずとも、大概の知識は手に入れることができます。これほどYoutubeやSNSなどが普及している今日においては、「聞いたこともない」というのはただの怠慢でしかないのではないかとさえ思います。


▶もう名門の時代は終わっている――だからこそ今すべきこと


 こう考えてみると、Kバレエスクールという独自の教育機関を育て上げてきた熊川さんが「名門」に便乗しようとしているのは残念で仕方ありません。ワールド・バレエ・デイにしてもそうですが、こういった企画の裏には、名門たる理由を失いつつある名門による焦燥が見え隠れしています。決して名門ではなかったKバレエスクールなどは、むしろ名門界隈の常識を破って新たな新機軸を打ち出すくらいでなければなりません。

 結局のところ、各国の「名門」ですら、世界中のコンクールに足を運んで生徒集めに血眼になっているくらいなのですから、熊川さんのような方には、これまで脚光を浴びてこなかったバレエ教室やバレエ学校を招待し、名門としのぎを削らせるくらいの企画を期待したいところです。

 そして言うまでもありませんが、「名門でしか教えてもらえない」ようなことがいまだに存在するとすれば、そんなものはとっととYoutubeにでも公開されるべきです。そういう時代です。

 「もう大学はオワコン」なんてことをさまざまな著名人が口にし、それが必ずしも炎上しないご時勢です。そろそろ日本バレエ界も、20世紀的な考えをアップデートしてはいかがでしょう?


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